大戦略誕生秘話「超シミュレーションゲーム誕生」



●第4話「伝説の珊瑚海海戦」

珊瑚海海戦 パッケージ 「現代大戦略」の発売の2年前、1983年3月にシステムソフトは「珊瑚海海戦」という、知る人ぞ知る超コテコテのシミュレーションゲームを発売した。PC-8001用でありながら、フロッピーディスク3枚組み。しかも、ボードゲームと同等の作戦盤や駒も付属しており、その分コストがかかったので、価格も14,800円! 何から何まで異色中の異色の製品であった。
 当時、フロッピーディスクドライブは高嶺の花の存在(記憶容量160KB×2ドライブで32万円!)で、ましてやゲームソフトのために使うなどとは、誰も考えなかった時代である。とうぜんと言うか、「珊瑚海海戦」は話題にこそなったものの、結果として大赤字に終ったのである。
 今にしてみれば狂気の沙汰としか言いようがない。プログラムを開発したのがW氏、それをプロデュースしたのがS氏であるが、両氏ともにシステムソフトの中でもひときわ異色な社員であった。特にS氏については、別の機会に紹介することになると思う。
 その悪夢のような記憶が、ヘンリー副社長の脳裏をよぎったのかもしれない。経営者としては、慎重にならざるをえなかったのは、いた仕方のないことである。
 ところが、これも後日談で明らかになったのだが、藤本がシステムソフトに最初に持ち込んだのは、その「珊瑚海海戦」を発売した会社だから、良さを理解してくれるに違いない、と思ったからとのことであった。結局、世の中、何が幸いするのか分からないものである。

珊瑚海海戦 若気の至りというか、元もとの性格というか、私はヘンリー副社長に直談判に向かったのである。理屈っぽい性分である私は、日系3世・米国人のヘンリーに向かって、まくしたてるように、もっともらしい理論を展開したが、結局、その場では結論が出なかった。最終的には当時の社長であったK社長が、正式決定ではないが前向きに検討してもよい、という判断をしてくれた。このK社長こそがシステムソフトをシステムソフトたらしめた人物であるが、彼もいずれかの機会に紹介したいと思う。
 さて、さっそく私は藤本氏に事情を説明した。申し訳ないが、少し時間が欲しい、ということを率直に伝えた。そして簡単な覚書を交して、評価用のフロッピーディスクを預かることにした。当時の資料によると、それから企画書などを私が作成し、7月20日までに正式決定することになったと記録されている。
 さて、いよいよ製品化に向かって動き出したわけである。ところが当時としてはあまりにもスケールが大きく、ゲームそのものの拡張性が高いために、整理するべき仕様が次から次に出てきてしまった。いっこうにまとまらないままに、時間が過ぎていった。当初は9月には発売できるかな? というつもりであったが、それはとんでもなく甘い見込みであった。
 私としては、正式決定するときに大見得をきった手前、なんとしてでも早急に発売に漕ぎ着けたかった。しかし、いかんせん松山は遠く、修正したプログラムをフロッピーディスクで届けてもらうのに、2日間はかかった。このままでは、ズルズルと遅れてしまうと思った私は、やむをえず、こちらに来てもらって作業してもらうことを、藤本にお願いすることにした。
 電話で伝えると、何やら奥さんと相談するような声がした後「分かりました。スクランブル発進します。」と快諾してくれた。やれやれと思いながら、翌日待っていると、何と午前中には会社に来たのである。びっくりしてたずねると、昨日、電話があった後、すぐに車で、家を出発したとのこと。まさにスクランブル発進をしたわけであった。
 それからが、また驚異的であった。私の横に張りつきで、修正作業を進めてもらったわけであるが、プログラミングをしている藤本は、ほとんど一睡もしないままに、黙々と作業をやり続けたのである。それも、まるまる3日間である。彼以外の人間のほうが、ダウンしていった。私も、彼よりは3歳若いわけだし、プログラミングに比べれば、まだ楽な仕事だったはずだが、やはりついていけなかった。徹夜も2日目になると、藤本の後ろ姿には、鬼気迫るものを感じた。
 さすがに、このままだと体をこわすから、とにかく少し休んでくれ、とお願いしたのだが、いや大丈夫だ、と取りあってくれない。仕方なく、せめてものということで、ドリンク剤を数種類用意したが、それも効かなくなりつつあるように見えた。明らかにキーボードを打つスピードが落ちていたのである。
 そして当初予定していた仕様が、ほぼ全て入ったのが、ちょうど3日目の深夜のことであった。かなりバグは残っているものの、なんとか製品として格好が付く形になっていた。あとはデバッグだけなので、そう長くはかからないだろうと高を括っていたが、それも大きな誤算であった。それからが本当の地獄だったのである。

次回へ続く)


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